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イエス マダーム。 Mar,13 Mon

 
最近、連ドラや特番で「ホスト」の世界を覗き見ることも多い。
 ドンペリ、ヴーヴ・クリコをラッパ飲みしているホスト・・・。

 あー、もったいない、シャンパンは美しい泡も楽しまなくては・・・。
 あー、市価の5〜10倍の値段がつくんだ、このお酒・・・等とボンヤリ見ていると、
 「ルイ13世頂きました!」とクリスタルの美しいボトルを高々と上げるホスト。
 80万程。
 その時、私は15年ほど前のタイでの一夜を思い出した。

 当時私は、作家の森瑤子に憧れていた。
 彼女の小説に出てくる主人公のような大人の女性になることを夢見て。
 彼女の小説の舞台になった「オリエンタルホテル・バンコク」に宿泊したくなった私は、
 新婚旅行で訪れた。

 約130年の歴史を誇るザ・オリエンタルは世界各国の要人やセレブリティーに
 愛され続けている世界を代表する名門ホテルである。

 ガーデン・ウイング最上階に位置する、ル・ノルマンディーは
 タイの上流階級、高官、名士はもちろん、タイのロイヤル・ファミリーや
 世界的セレブリティーの姿も頻繁に見られるという
 アジア屈指のフレンチ・レストランである。

 滞在2日目のディナーは眼下広がるリバービューを楽しみながら料理を楽しんだ。
 味も最高ならば、サービスも行き届いている。

 肉料理に鳩が出され、給仕の若い青年が去った後、
 鳥料理総てが苦手な夫が一瞬顔をしかめた。
 すると、どこからか支配人らしき人が現れ、料理を別なものに替えると言う。
 ゲストがリクエストする前に対応する。総てにおいて完璧であった。

 楽しいディナーが終わり、チーズとブランディーを勧められた。
 ワゴンで運ばれてきたブランディーの数々。
 しかし、どれがいいのかなんて判らない。

 咄嗟に美しいクリスタルのデキャンタに惹かれ。
 「あれを」と指差したのがルイ13世。
 ニッコリ微笑んだ給仕がグラスにルイ13世を・・・。
 慌ててメニューを手に現れた支配人。

 「マダーム・・・」
 グラス一杯200ドル。
 彼は別のモノを勧める。
 これくらい払える・・・と少しムキになり、結局ルイ13世をオーダー。
 少し困った顔をした支配人だが、「イエス、マダーム」と最後には言ってくれた。

 三口で飲み干す。
 当時200ドルは、タイの人の平均月収に近い。
 「タイ人の給料、一瞬で飲み干す女」と、しばらく夫に言われた。
 「だから、何なの・・・」と夫には言う。
 しかし、とても恥ずかしいことをしたと反省している。
 「お勧めは何ですか?」と言うべきだったのだ。

 支配人は若い未熟な日本人に微笑みを忘れず、最高のもてなしをしてくれた。
 払えるかどうかなんて問題ではない。
 「あなたにはまだルイ13世は早いですよ」という事である。
 客としてのマナーの問題である。

 今の私は小説の女性より幾つか年上である。
 色んな意味であの頃より大人になったつもりである。
 「あれを・・・」とルイ13世を指差した時、
 「イエス、マダーム」と微笑んでもらえる大人の女性になっている・・・といいのだが。